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「おや・・・」
一瞬声をかけるのを躊躇ってしまった。
そこには見知った服装、見知ったはずの顔・・・なのだが。


私は約束の時間よりも少し早く待ち合わせ場所に着いてしまった。
腕時計をちらりと見ながら、ぼんやり彼が来るのを待っていた。
・・・と、数分もしないうちに私は人ごみに愛しい人の顔を見つけた。
「省吾さん!」
緊張交じりの浮き立った声で呼びかける。
すると彼は一瞬はっとした様子にみえたが、いつもの優しい微笑みを返してくれた。


名前を呼ばれ、やっぱり彼女だったのかとほっとした。
と同時に驚きもしたが、その可愛い表情に思わず笑みがこぼれる。
「髪・・・短くしたのかい?」
「はい・・・あの・・・」
何気なく尋ねると、彼女はなんともバツの悪そうな返事をする。
そう、私が見知った服や顔に声をかけるのを躊躇したのは、
彼女の髪型が先日までとは、もとい出会ってからの彼女の髪型とは違ったからだ。
ついこの間会ったときまでは、艶のある髪が彼女の背中を覆い隠していたのだが・・・。
今はさっぱりと項が露出し、口元にかかるあたりで切り揃えられている。


彼はいつも私の髪を褒めてくれていた。
大きな手で私の頭を撫で、細くきれいな指でサラサラと髪を梳かしてくれた。
そんな彼に内緒で髪をバッサリと切ってしまったことに、どこか罪悪感も感じていた。
私は秘めた感情を包み隠さず、言葉を続けた。
「ごめんなさい」


突然飛び込んできた謝罪の言葉。
「どうして謝るのかな?」
怒るわけでもなく、単純に疑問に思って問いかけた。
「だって、いつも褒めてくれていたのに・・・省吾さんに内緒で切ってしまったから」
彼女の可愛い答えに私は思わず短くなった彼女の髪をクシャと梳いた。
「そんなことを気にしていたのかい」
「だって・・・」
彼女は少し顔を紅潮させていた。
こうしてみると、以前の長い髪はとてもきれいだったし彼女に似合っていたが、
今のボブヘアはなんとも色っぽさを放っている。
「でもどうして・・・失恋したわけじゃないだろう?」
恐る恐る私は髪を切った理由を尋ねた。


「実は・・・」
私はゆっくりとその経緯を話した。
今まで長い髪を自分でも大切に思ってきたし、手入れも念入りに行ってきた。
手入れは今までと遜色なくしているはずなのに、最近髪の毛が傷んでしまっていたこと。
長さ故か、抜け毛も増えてきたような気がしていたこと。
省吾さんは私の言葉を一つ一つ噛みしめるように聴いてくれた。
髪を切ることを決めたときも切ってからも、私には罪悪感がつきまとっていた。
それが彼の言葉と態度ですーっと消えていった。
何より、短い私の髪をクシャっとする彼の手は暖かくて安心した。
・・・ふと、彼が私をじーっと見つめているのに気づく。
脳裏に浮かぶ、ひとつの疑念。
勝手に髪を切ったことには怒っていないけど、実はこの髪型は似合ってないんじゃないだろうか。
もしくは、彼の好みではなかったとか。
そう思うと、さっき晴れたはずの私の心がどんよりしていった。


思わず理世さんに見惚れていると、だんだん彼女の表情が沈んでいくのがわかる。
・・・ああ、つい見つめすぎてしまったかな。
それに、まだ彼女に今の髪型を褒めていなかった。
初めて見る愛しい人の姿に惹きこまれ、夢中になってしまっていたのだ。
「短いのもよく似合うね」
私はにっこりと、ようやく遅ればせながら彼女に伝えた。
「ほんとですか?」
彼女はほっとした表情と少しの不安を浮かべている。
「あぁ・・・何よりこの首筋はたまらないな・・・」
「えっ・・・」
彼女は潤んだ瞳を大きく見開いて驚いている。
この純粋さが愛おしいものだ。
「ふふ、今夜可愛がらせてもらおうかな」
私がそう囁くと、彼女は赤かった顔をさらに紅潮させた。

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