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肩につかなくてもいいですか?

「いらっしゃいませ」
アシスタントの子が元気よく挨拶をしている。
お店に入ってきたのは高校生くらいの女の子である。
僕は何度かその女の子を担当したことがある。
確か、マリちゃんだっけ…。

「リョウさん、3時にご予約のお客様いらっしゃいました」
アシスタントの子が僕に声をかける。
今日も僕が彼女を担当することになっていたのだ。
指名なしで予約してきた彼女。
何度か担当している僕がいいだろうということで
スケジュール的にも空いている僕が今日も担当することとなった。

「こんにちは、本日担当させていただきます、リョウです」
鏡の前に案内されて座っている彼女に挨拶をする。
「…あ、はい。よろしくお願いします」
彼女はいつものことだが、緊張しているのか口数少なく、目線をすぐに落とした。
「今日はカットですよね。どんな感じにします?」
彼女の髪を触りながら尋ねる。
その髪は胸下まで伸びたストレートで
よく見れば枝毛も少しあるが、この長さにしてはきれいな方だと思う。
いつも揃えたり、梳いたりするくらいだから今日もそうだろうな…。
そう思いながら彼女の注文を待っていた。
「えっと、これくらいまで切ってください」
と、髪を一束つまんで彼女は答えた。
その指は肩のあたりを示していた。
「わかりました。じゃあそれくらいにして軽くしましょう」
僕はそう伝え、シャンプーをアシスタントの子に代わった。

シャンプーが終わり、彼女がカット台に戻ってきた。
「どうぞ」とカット用のケープをかけ、タオルでまとめられた髪をほどく。
ざっくりと髪に櫛を通しているうちに、僕の心の中に少し黒い気持ちが生まれていた。
僕は彼女に確認する。
「肩につかなくてもいいですか?」
彼女は一瞬戸惑ったかのようにも見えたが、すぐに
「はい、大丈夫です」と答えた。
そうこうしているうちにブロッキングも終わり、準備は整った。
「それじゃあ切っていきますね」
僕は後ろの髪からブロッキングを外し、手に取った。
ジョキジョキ…
生え際から数センチのところにハサミを入れた。
パサッ。
髪の毛を少量ずつ手にとって切っているので、
おそらく彼女に衝撃は少ないはずだ。
どれくらい切っているかは見えないし、わからないだろうから。
しかし、実際は30センチ近くの長さの髪の毛が切られ、
次々と床に落ちていく。
どんなに長い髪でも切るのはあっという間である。
後ろが切り終わり、次は横だ。
サイドの髪もブロッキングを外し、右サイドの髪を手に取った。
そして次の瞬間にハサミが入る。
ジョキ…ジョキ…パサッ。
やはり30センチ近くの髪が床に落ち、残った髪は顎あたりで揺れている。
「…っ!?」
僕は彼女の声にならない驚きのような気配を感じたが、
気にも留めずに無言でカットを続けた。
きっとサイドの髪が予想以上に短くなって驚いたのだろう。
反対側にもハサミを入れる。
ジョキッ…パサッ。
右側と同様に髪が落ちていく。

さっきまでたっぷりと胸下まである髪をなびかせていた彼女は
首が露わになり、ザクザク切られたショートヘアになっている。
このままではプツンと切り揃えただけであり、お洒落も何もない。
シャキシャキッ
さっき持ち替えた梳きバサミで毛量調節すると同時に、空気感を出していく。
パサッ…パサッ…
小気味いいハサミの動きに合わせて髪の毛も落ちていく。
こんなもんかな、と僕が思った頃には、
彼女の髪はサイドがリップラインで後ろは襟足ギリギリの長さになっていた。
一言で表現するなら、シンプルなショートカットだ。

「前髪はどうしましょうか?」
僕が平然と尋ねる。
「あ…えっと…目にかからないように」
彼女は答えるものの、どう見ても動揺している。
やはりこの髪の長さに驚いているのだろう。
チョキチョキ…パサッ。
前髪は眉毛にかかるあたりで整えた。

さて、仕上げだ。
僕は奥の戸棚からシェーバを取ってきた。
「それじゃあ、ちょっと下向いてくださいね」
僕がそう言うと、彼女は『?』を浮かべながらも下を向いているようだった。
ヴィーン…
シェーバーの音が美容院に鳴り響く。
チョリチョリチョリ…
ずっと隠れていたうなじの処理を済ませた。
戸惑っているような彼女に一応フォローの言葉をかける。
「うなじきれいにしておきました。刈り上げとかじゃないので安心してくださいね」
すると彼女は、ほっとしたような表情と恥ずかしそうな表情を混ぜたような表情で
「…はい」と小さな声で答えた。

「お疲れ様でした」
僕はそう言いながら彼女のケープを外した。
そして、手鏡を渡し、椅子を回して彼女から後ろが見えるようにした。
「こんな感じでスッキリさせました。傷んでるところは全部なくなりましたよ」
僕は簡単に出来上がった髪型の説明をした。
彼女は自分の後ろ姿を見て少し青ざめているようでもある。
そして小さな声で「…はい」と答えた。

お会計を済ませる。
そのとき、アシスタントの子が無邪気に
「ずいぶんバッサリいかれたんですね」と彼女に声をかける。
彼女はずいぶん恥ずかしそうにしていた。
こちらが「ありがとうございました。またお待ちしてます!」と言うと
彼女は「ありがとうございました」
と軽く会釈をして帰っていった。
その後ろ姿は、どことなく肩を落としているようにも見えた。


きっと彼女はあんなに髪を短くする気はなかっただろう。
肩につかなくてもいいとはいっても、
肩につくかつかないかぐらいを想像していたのだと思う。
それを知っていて僕はバッサリとショートにした。
「肩につかなくてもいいですか?」
という僕の確認に
「はい、大丈夫です」と答えたのは他でもない彼女だ。
今まで何度か担当したときにみた彼女の様子から、
彼女はこの状況で文句を言うタイプではないと感じていた。
だから、遠慮なく彼女の本来の希望には反してバッサリと髪を切らせてもらった。
今時珍しい黒髪のストレート。
それをバッサリと切らせてもらえる機会なんてめったにない。
僕の心に生まれた黒い気持ちは、形になり、快感をもたらしたのである。

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